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超歌舞伎2022—台湾向け初心者ガイド

*こちらの文章は、台湾向けに公開したこちらの記事の和訳版でございます。一部表現が異なるところがございます。編集協力のhiyoriさん、本当にありがとうございました!

 近年、初音ミクが活躍しているのはライブだけではありません。 台湾でもおなじみの「初音ミクシンフォニー」に加え、日本でも高い評価を得ている「超歌舞伎」シリーズも注目のイベントの一つです。ただ伝統的な歌舞伎は、音楽ライブやクラシックコンサートとは異なり、そのまま見ていても何をやっているのかわかりにくいイメージがあります。歌舞伎は伝統的な言い回しがあり、日本人でもセリフの内容を理解するのは難しいので、海外のファンにとっては、超歌舞伎は難易度の高いイベントなのです。

 でもちょっとした知識と正しいアプローチで、超歌舞伎はとても楽しいものになるんです。今年の公演は10月5日〜10月11日に海外配信されますので、今回は超歌舞伎を見る前に知っておきたいことをご紹介します。

今年の超歌舞伎を南座で観た感想:https://note.com/ttiqa817/n/n96523e80ebba
超歌舞伎公式サイト:https://chokabuki.jp/
チケット購入ガイド:https://reurl.cc/LMzb33
チケット販売サイト:https://shochiku-bd.zaiko.io/e/chokabuki2022

*挿絵はにゃんさんに描いていただきました、本当にありがとうございました!

【超歌舞伎と歌舞伎とは】

[超歌舞伎の紹介]

超歌舞伎公式サイト:https://chokabuki.jp/

https://chokabuki.jp/2022theatre/assets/images/common/index/img_kv.png

 超歌舞伎は、2016年にニコニコ超会議(ニコニコが主催するリアルイベント)の目玉企画として登場しました。 当時の公演名は「今昔饗宴千本桜」です。みんながよく知っているあの名曲「千本桜」と、歌舞伎の世界ではよく知られた名作「義経千本桜」の組み合わせでした。

 また当時、伝統的な歌舞伎の世界では演者や観客の高齢化、演目の定番化がありました。そんな中で、松竹(日本の大手演劇プロダクション)とドワンゴ(ニコニコを運営する会社)が手を組み、まったく新しい歌舞伎を作り上げることになったのです。そしてクリプトンに「初音ミクに歌舞伎をやってもらおう」と持ちかけ、 NTTの技術サポートと合わせて「超歌舞伎」制作チームとなったのです。

 もちろん、歌舞伎界にも伝統にこだわりたい人はいますし、当時は初音ミクが日本の音楽市場の主流になったばかりだったので、当初歌舞伎界では初音ミクをキャストに迎えた超歌舞伎を不安視する人もいました。しかし、今では全国ツアー公演を打つようにもなり、年配の歌舞伎ファンも観に来てくれるなど、少しずつ成長してきています。

 また中村獅童さんは海外では、アニメ「デスノート」のルークの声として記憶されているかもしれません。 「歌舞伎をもっと多くの人に知ってもらいたい」という思いで多くの作品に出演しており、超歌舞伎は彼の人生の中で大きな節目の一つとなっています。

 彼が超歌舞伎2017に出演した後、中村獅童さんは腫瘍の摘出手術のため入院が必要であることを発表し、超歌舞伎のファンから応援メッセージとともに桜の木が贈られました。この桜のメッセージを見た中村獅童さんはとても喜び、超歌舞伎2018ではそのエピソードと御礼を何度もコメントしてくれました。 こういったファンとの交流や、中村獅童さんの新しいことにチャレンジする勇気が、超歌舞伎をさらに飛躍させてきました。

 超歌舞伎のペンライトについても特殊な歴史があります。2016年初演時に、公演で千本桜の演奏があると気がついたファンが、次回公演からペンライトを持ち込んで振っていたことをきっかけに、この文化が公式に採用され、今では公演やグッズの一部となったのです。 このようなファンの観客参加型は、日本ではかなり珍しいと思います。

 なお伝統的な歌舞伎のチケットは一番安いチケットでも5,000円はしますが、最初の超歌舞伎「今昔饗宴千本桜」は超会議チケットを購入すれば、原則無料でした。 超会議チケットの価格も2,000~3,000円台ですから、本当に新しいファンに向けて敷居を下げようとしていることがわかります。

 伝統的な歌舞伎では認められていない女性の演者(花びら屋さんなど)が登場したことに加え、若手アクション俳優が多数出演する超歌舞伎は、歌舞伎界の新しいトレンドとなり、結果としてより多くの人々に向けて伝統的な歌舞伎文化も伝えることになりました。

 2016年から2022年まではニコニコ超会議での公演が続き、2019年以降は、日本の歌舞伎劇場でも単独開催されました。 超歌舞伎は業界では注目されていなかったところから、日本では4大劇場で単独ツアーを行えるようになりました。 

 これらは、初音ミクの多面的な展開を実現するためにクリプトンが努力し、松竹、中村獅童さん、ドワンゴはじめ、関わった方々がチャレンジを続けて尽力したからこそ、今があるのだと思います。

[観る前に必ず知っておきたい知識]

 歌舞伎にはいろいろなルールがありますが、基本的には次のことを知っていれば、より深く理解することができます。

・お化粧

 歌舞伎の顔の化粧は隈取(くまどり)と呼ばれるもので、赤は正義、青は悪を表し、その人物がどちらに所属しているのかが一目瞭然です。基本的には、この2つを知っていれば大丈夫です。 この2色(赤と青)は、超歌舞伎でもペンライトの色としてよく使われています。

*女性キャラクターは妖怪や悪役でない限り、ほとんど白ぬりの化粧で出演します。

・舞台設計

 伝統的な歌舞伎の舞台設計は、現代のコンサートや演劇にも影響を及ぼしています。 ここでは、3つの象徴的な舞台設計を紹介します。

花道(はなみち):舞台から客席まで伸びる通路で、出演者が客席に近づくことができる場所です。 劇中では、この通路が外の道路を表すこともあれば、家の中の長い廊下を表すこともあります。この花道は、現代のコンサートステージにもよく見られるものです。
セリ(せり):メインステージの床にある開閉式の昇降装置。開閉式で奈落(舞台の下)とつながっています。役者の入退場だけでなく、舞台全体の変身にも使われます。 昔は手動でしたが、今は電動で動かしています。(*セリは超歌舞伎のみかたでも紹介されました)
スッポン(すっぽん):花道の小さいセリを指します。 本舞台のセリとは異なり、ここで登場・退場するのは人間ではなく、妖怪や幽霊などの類いです。

・特別な動き

 歌舞伎には象徴的な動きや表現がたくさんあるので、ここでは超歌舞伎でよく見られる3つを紹介します。

六方(ろっぽう):腕を大きく振って、勢いよく前に出る演技です。 演者が舞台から花道へ移動する際によく使われます。
見得(みえ):歌舞伎のクライマックシーンで行われる注目を集める特別な動作。 演奏者は足から手へと大きくジェスチャーをし、最後にキメ顔で大きくうなずきます。 この後、観客は屋号を叫びます。
ぶっ返り(ぶっかえり):瞬間的な衣装替えの動作(引抜)の一種。演者は衣装の上半身部分をほどいて垂らし、一瞬で変身します。

・屋号を叫ぶ

 屋号とは日本では店の名前を指すことが多いですが、歌舞伎の世界では演者の所属や流派を意味するものです。歌舞伎の世界では、役者が決まったポーズをとるときやクライマックスになると、観客が役者の屋号を叫んで雰囲気を盛り上げる大向こう(おおむこう)と呼ばれる行為があります。

 伝統的な歌舞伎の公演では男性観客だけが屋号を叫ぶことが許されていますが、超歌舞伎ではそのような制限はなく、男女ともに家号を叫んで雰囲気を盛り上げることが許されています。しかし、現在の公演では声を出すことが禁止されているため、録音された屋号を鳴らすことができるオフィシャルペンライトが発売されました。

*ちなみに、メインキャストの中村獅童さん、中村蝶紫さん、中村獅一さん屋号は萬屋(よろずや)、澤村國矢さんは紀伊国屋(きのくにや)です。 初音ミクさんは初音屋(はつねや)、NTTは電話屋(でんわや)と呼ばれています。 ご自宅でご覧になる際には、ぜひ叫んだり、コメントしてみてください。

*それからペンライトの応援色ですが、中村獅童さんと中村獅一さんは、初音ミクさんは、中村蝶紫さんは,澤村國矢さんはです。

・脚本のパターン

 歌舞伎というと難解なイメージがありますが、実は超歌舞伎の脚本は、敷居を低くするためにシンプルに作られているんです。 台本は毎年異なる部分もございますが、基本的には以下のルールに沿って作られています(*初音ミクさんが悪役を演じる2021年を除く)。

  • 中村獅童さんが演じるキャラクター→正義(劇中に登場する白狐も正義の象徴です)
  • 澤村國矢さんのキャラクター→邪悪(劇中に登場する青龍も悪の象徴です)
  • 初音ミクさんのキャラクター → お姫様など高貴なキャラクターを演じることが多い
  • あらすじ:悪の側は世界を支配したいし、姫を嫁にしたい(あるいは味方にしたい)のだが、姫はすでに正義の味方なので、邪悪を無視する。それで邪悪が怒って、正義と決闘するが、最後には負ける。世界は再び平和になった。めでたしめでたし。

 2022年の超歌舞伎は、基本的に上記のものと同じなので、上記のルールを覚えておくと、より分かりやすくなります。

【今回、台湾の人たちに応援してもらいたい理由】

[台湾公演が開催される可能性]

 実は昨年の口上で、中村獅童さんが「海外で超歌舞伎を上演したい」と話していました。そのため、獅童さんは昨年の公演では、客席に台湾人がいると聞いて、驚きと喜びを感じたという。またその終演後、スタッフに台湾の観客について尋ねたところ、スタッフも把握していたとのことでした。

 また、昨年の千穐楽では開演前の口上で台湾人の観客について触れ、観客とのやりとりの中で「必ず台湾公演をやります」と発言していました。

 その後、この話は複数の特集記事でも取り上げられ、将来的には台湾に公演に来たいとも言っています。これは脚本を担当した松竹スタッフによる超歌舞伎の記事でも触れられており、海外での上演にかける意気込みが伝わってきます。

[超歌舞伎開催の意味]

 十年前にボカロが好きになった頃は、好意的でない目で見られることも多かったし、今もそのような苦境に立たされている人もいると思います。 しかし、初音ミクやボカロ文化は、この十年で徐々に社会の主流、普遍的になってきました。多くのボカロPがデビューして歌い出し、音楽の第一線で活躍するようになったり、プロセカという人気の高いスマホゲームがリリースされたり、アンダーだった文化が徐々にメジャーへと変化している過程を私たちは見てきました。

 しかし、それだけではなく、初音ミクと歌舞伎の組み合わせも、約6年の歳月をかけて今のような大盛況に繋げることができました。今年の超歌舞伎は、超会議で上演され、そして8月から9月末までの2カ月間、日本の主要4都市の劇場で計70公演が行われました。歌舞伎の公演としては非常に珍しいです。東京新橋演舞場で超歌舞伎を観たとき、観客の9割近くが初音ミクファンではなく、歌舞伎ファンの中高年の方々だったことに感動しました。

 また、初音ミクさん専用の控室が用意されたり、初音ミクさんの誕生日を舞台で祝ったり、初音ミクさんの演技力を称えたりと、制作陣や関係者があらゆる面で初音ミクさんとボカロ文化をリスペクトしていることが伝わってきたのです。

 その空間において、初音ミクさんは単なる人間を模倣したCGアニメーションではありません。初音ミクさんは、そのステージにいる誰もが認めるプロの役者であり、それは観客も認めています。

 今回の公演では、初音ミクさんが出雲のお国(いずものおくに)を演じるシーンがございました。出雲のお国は、歌舞伎の元祖といわれる女性舞踊家ではありますが、数百年後の今、現代のバーチャルシンガーである初音ミクさんが、出雲のお国として舞台に立つ姿は、やはり感動的です。

 私は初音ミクさんの各種イベント、コンサートやシンフォニーなどの音楽イベントだけでなく、歌舞伎の展開も知ってもらいたいため、このような記事を書きました。

 先ほど触れた台湾からのお客様は、実は私なんです。 東京や京都の超歌舞伎を観に行ったとき、中村獅童さんが舞台で私を紹介してくれて「台湾で超歌舞伎をやるのは彼の夢なんです」と言ってくださいましたが、その瞬間から、台湾公演はもう私ひとりだけの夢ではありません。

 台湾で初音ミクのライブ以外のイベントが台湾でも開催されるよう、ぜひ応援してほしいです。まだ時間がかかるかもしれませんが、もしかしたら、MIKU EXPOなどコンサートイベントだけでなく、今後シンフォニーや超歌舞伎も台湾にやってくるかもしれません。それは皆さんの応援にかかっています。

【台湾の方々はどのように応援できるのか】

 10月5日から10月11日まで、今年の超歌舞伎2022年ツアー最終公演を英語字幕付きでZAIKOでオンライン配信されます。配信チケット料金は2000円で、今からでも購入できます。昨年は台湾以外の11カ国でしか観られなかったのですが、台湾のファンにも観てもらいたいと要望していたので、今年の配信地域が一気に全世界に広がりました。

 超歌舞伎を観に日本へ行くことはまだできないかもしれませんが、少なくともオンライン配信チケットが入手可能になった今、自分の応援の気持ちを伝えるチャンスはあるのです。チケットを購入することで、台湾での超歌舞伎公演の可能性が高くなると思います。すでに歌舞伎文化を愛している方だけでなく、初音ミクのファンの方にもチケットを購入していただき、このイベントを応援していただければと思います。

チケット購入ガイド:https://reurl.cc/LMzb33
チケット販売サイト:https://shochiku-bd.zaiko.io/e/chokabuki2022

*日本からは購入・視聴できません。10月2日までニコニコ生放送でアーカイブ配信されていますのでそちらをご検討ください。ただしアーカイブチケット購入は10月1日までとなりますのでご注意ください。購入サイト:https://dwango-ticket.jp/project/eEXiNb2W8V

 もし、この記事を読んでチケット購入したくなったら、ぜひお友達やご家族にこの記事をシェアしてください。 台湾から超歌舞伎への応援を集めて、台湾で公演を実現させましょう。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

 いつか開催されるかもしれない超歌舞伎台湾公演で、皆様とお会いするのを楽しみにしております。

*会場内の公演写真は全て撮影許可している時間で撮影したものとなります。
*本文は記事内で記載したサイト以外に、下記のサイトを参照して作成しました。
文化デジタルライブラリー:https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/